「夢」は続けてみることがある?

3月19日 21:00

ここ2週間程、診療報酬改定作業で神経が張り詰めていたせいか、

いつもより早く眠くなりベッドのなかへウトウトしながら入りこむ。

それから数時間たったのだろうか。

私は海岸沿いの道を歩いていた。今までに来たことがありそうな、なさそうな

どこにでも見られるテトラポットがあり投網が干してある風景。

天気も良くて散歩日和である。そして人もクルマも見かけない。漁師村と

思われるこの周辺、早朝からのお仕事で昼は家の中で休んでいるのだろうか。

そう考えながらどれくらい歩いただろうか。遠くに一人の女性が防波堤に座り

海を見ていた。

数分後、その女性が近くなった。遠くからはわからなかったがまだ若く、

二十歳前後くらいに見えた。気がついたら声をかけていた。

今まで誰にもすれ違うことも無かったので寂しかったのだろうか。

するとこちらに笑顔を向けてくれた。不審者と思われずちょっと安心。

その女性の見た目は、漁村育ちとは思えない、いやここら辺の育ちでは

無いのかも知れないが、顔色は決して良いとは言えないが不健康な感じでも無く

細身の素朴な感じだった。少なくとも人見知りでは無いのだろう。

こんなこの周辺に住んでいないオジサンに声をかけられても逃げなかったので。

その後、いっしょに防波堤に座り海を見ながら話しをさせてもらった。

この周辺のこと、海のこと、自分のこと。こんな見知らぬ自分に嫌な顔を

しないで話しを聞いてくれた。

本心は世間話しをしながら、「なぜここに女性がひとりでいるのか?」が

とても気になっていた。すると私の気持ちを読んだかのように彼女は自分の

ことを話しだした。

「女性」はここから少し離れたところに両親と住んでいるとのこと。学校にも

仕事にも行っていないらしい。毎日、ここで海を見ていると。

年頃であれば、大学生か新社会人に見えるがここら辺の静けさをみるとそうでも

ないのかとも思えた。時間も随分と経ち陽が傾いてきた。随分と話しこんで

しまって今更だが迷惑では無かっただろうか、と。

そう思いそろそろお暇しようかと防波堤に立ち上がったとき、夕食をいっしょに

食べて言ってほしいと。数時間前に知り合ったばかりで「えっ?」って思った、

というのは両親もいるし寂しいワケでは無いのだろうしから、さすがの私も

断ったが、「どうしても」と今までに見せなかった不安そうな顔をしながら

言われてしまった。

この後、帰るだけ、とは言っても帰宅なのか?旅館なのか?自分でもわからない。

そう考え、ここはお言葉に甘えることにした。それだけ仲良くなったと考えることに

したが、年齢が親子くらい違うけど。とは言っても理由が気になる。

両親もいるのに見知らぬオジサンを家に呼ぶだろうか? 歩きながらとても気になって

いるが言い出せない自分がいる。無言のまま数分たっただろうか。

彼女から理由を話しだした。実は普通の食事ができない身体だという。

「どういうこと?」と思い聞いてみた。生まれつきなのか覚えていないが物心ついた

ときから離乳食のように形がほとんど無い食事しかできないと。両親は普通の食事を

食べているが自分がこんな感じなので、たまには普通に食べれる人と食事をさせたいと

説明してくれた。身体が弱そうに見えたのは食事のせいなのかも知れない。

私も重症筋無力症のため嚥下が弱くなってしまい呑み込みがおぼつかないことや、

重いときは呼吸にも影響がでることもあるが、とりあえず普通の食事はできているので

この女性はよっぽどなのであろう。話しを聞いてますます見知らぬ自分が上がりこんで

食事をしてもいいのか心配になったが、「気を使わないで」と。毎度のことだが私の

心を読んで返事をくれているよう。

それから10数分あるいたろうか、「ここ」と一言。到着したらしい。

この周辺から漁師関係かた思っていたが普通の家だった。

家に入ると、「女性」の両親が出てきた「?????」。「見知らぬオジサン」が

いっしょであることを伝えてないので当然のリアクション。

実は彼女、見た目と違い行動派なのか?この場で両親に見知らぬオジサンを

説明していた。説明を受けた両親はなにを理解したかは定かでは無いが納得した

顔になり母親らしきひとは流しに入っていき、父親らしきひとと「女性」と三人、

居間で夕食ができるまで待つことになった。

とは言っても初対面でいきなり上がり込んで居心地は決して良くは無かったが、

「女性」が気を利かしてくれていた。やっぱり「心」を読まれている?か。

一時間ほど話し込んだだろうか、母親が食事を持ってきた。

私も以前はコックをやっていたこともあり自炊をしているので、そこら辺の同年代の

独身オジサンよりよいものを食べている自身はあったが、ひとり増えたにも関わらず

この短時間での作ってくれたとは思えないような豪華な食事だった。

そして彼女の前には、先ほど話しをしていた通り、ほとんど形の無い離乳のような

ものとプラスチックでできた少し小さめのスプーン。

そろったところで、食事となった。見た目通りのおいしい食事。これには敵わん、

そんな感想を持った。

女性はというと、スプーンを手に取りその離乳食みたいな食事を口に入れているが、

なかなか飲みこめないよう。心配になっていたとき、母親が「女性」の食事を固形が

見えなくなるくらいつぶした後、細めのスプーンを持ってきて食べさせてあげていた。

呑み込みと同じく、一回の呑み込みできる量も体調でかわるのだろうか。

ほんの茶碗一杯くらいの御飯をゆっくりと食べてさせてもらっていた。

そして食事が終わり、時間も結構遅くなっていたので帰ろうと挨拶をしたとき、

「女性」より泊まっていくよう勧められた。それを聞いていた両親は何も言わない。

娘が連れてきたとはいえ、見知らぬオジサンに夕食を振る舞い、しかも泊めて

しまうとは、このご時世で驚きを感じるが田舎故なのだろうか。

ここまで世話になったのだから泊まることにした。どうせどこに帰るのかも

わからないので。

その後、客間に案内をされてお風呂も使わてくれた。戻ると客間には布団が

敷いてあった。もう遅いので、女性と両親に挨拶をして寝ることにした。

今日は、この漁村と思われるところを歩いていて「女性」に出会い、話しをして

少し身の上話し的なことを聞き、その後、家にお呼ばれして夕食をごちそうになり

仕舞いには泊めてもらうことになった。なんと不思議な一日であろう。と

考えながら横になったら、いつのまにか「女性」が横に寝ていた。

普通、疑問に思うところだが、いつも傍にいる感覚だったのだろうか。

なにも気にせず顔を見合わせる。そして無言がどれくらい続いただろうか、

「女性」が夕食でのことを話しをしてきた。普段は固形が残っていても食べれるが

体調が悪いときには飲み込めないともあって、その時は母親が口移しで食べさせて

くれるとのこと。今日くらいの時は口移しで食べさせてもらうことが多いが、私が

居たのでため気を利かせてくれて、時間はかかるけど細めのスプーンで何とか

食べれたとのこと。

両親が普通に食事を楽しめないとは「このこと」だったことに今気が付いた。

乳幼児がいれば母親が離乳食を食べさせてあげるだろうし、ある意味では普通の

食事風景と思っていた。確かに母親は大変であることは想像できる。

私がせっかく食事に呼ばれ両親に食事を普通に楽しんでもらうのであれば、私が

食べさせてあげれば良かったかと思い彼女に伝えたが、「女性」は何を思ったか

私に口移しで食べさせてほしかったと言ってきた。夜も遅くてオジサンの

頭では整理しきれない。確かに両親は普通に食事ができる。それはわかる。

だけど、今日知り合った親子くらいトシの離れたオジサンから口移しは

無いだろう。そもそも表情が読みにくい「女性」だが口調より真面目に話しを

しているのはわかるが、理由を聞いても答えてはくれない。

そんな会話の途中からこころの中では別のことが、ずーっと気になっている。

いま、この一組の布団に二人で寝ているが、当然狭く密着しているそれも寝巻で。

「密着」のせいで「口移し」の整理できない。若い女性が薄着で密着していて、

平常心でいられる男性がいるだろうか?「女性」も何を考えているかわからんが

私もひとのことは言えないなぁ。。。

 

3月20日  6:00

            ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ。

 

目覚まし時計代わりのスマホが朝を告げている。もう6時か。仕事にいかなきゃ。

 

いいところ(?)で起こされてしまった。